さ く ら
サクラ 桜 佐久良 佐案 作楽 左久良
見渡せば 春日の野辺に 霞立ち 咲きにほへるは 桜花かも 10−1872 作者未詳 春日なる 三笠の山に 月も出でぬかも 佐紀山に 咲ける桜の 花の見ゆべく 10−1887 作者未詳 バラ科 サクラ属 お花見といえば桜を連想するほど、桜は日本の花を代表する花として古くから親しまれてきた。 万葉集には桜を詠った歌が46首ある。単に花として詠んだ歌が300首近くあるというから、詠まれた情況から判断すればもう少しあるかもしれない。 ところが万葉集に梅を詠った歌が120首ほどあり、桜に比べて断然多く、植物を詠った歌の中でトップの座を占めている。 梅は万葉の頃大陸の文化とともに渡来したもので、「我が宿に」とか「我が園に」と詠われている歌が多いことでもわかるように、舶載嗜好の強い当時の貴族は競って庭に植え珍重したものと思われる。 一方、庶民にとってはまだ梅は高嶺の花。一般的には「高円の山の桜」「あしひきの山桜花」「春日の野辺の桜」と詠われているように自然の山野に咲く桜を愛でていたのではなかろうか。 今花の名所の桜は大抵が染井吉野だが、これは江戸時代にオオシマザクラとエドヒガンの交配により作られたもの。当時は葉と花が同時に開くヤマザクラが中心だった。華やかな反面、その清楚な佇まいが好まれていたのだろう。 1872の歌意は、ずっと見渡せば、春日の野辺には霞が立ち込めている。そこに花が美しく咲き誇っているが、あれは桜だろうか。 1887の歌意は、春日にある三笠の山に早く月が出ないだろうか。佐紀山に咲いている桜が良く見えるように。万葉人も夜桜を楽しんでいたのだろう。これは旋頭歌。 |