稲・稲田 の 歌

   
 秋の田の 穂の上に霧らふ 朝霞 いつへの方に 我が恋やまむ 2-88 磐姫皇后
 秋の田の 穂向きの寄れる 片寄りに 君に寄りなな 言痛くありとも2-114 但馬皇女
  
 秋の田の 稲田の刈りばか か寄りあはば そこもか人の 我を言なさむ 4-512 草嬢
 言出しは 誰が言なるか 小山田の 苗代水の 中淀にして4-776 紀女郎 
  
 湯種蒔く あらきの小田を 求めむと 足結出で濡れぬ この川の瀬に7-1110 作者未詳 
 住??の 小田を刈らす児 奴かもなき やっこあれど 妹がみためと 私田刈る7-1275 作者未詳
 春日すら 田に立ち疲る 君は哀しも 若草の 妻なき君は 川に立ち疲る7-1285 作者未詳
 石上 布留の早稲田を 秀でずとも 縄だに延へよ 守りつつ居らむ7-1353 作者未詳
  
 秋の田の 穂田を雁がね 暗けくに 夜のほどろにも 鳴き渡るかも8-1539 聖武天皇
 秋田刈る 仮廬もいまだ 壊たねば 雁が音寒し 霜も置きぬがに8-1556 忌部首黒麻呂
 ひさかたの 雨間も置かず 雲隠り 鳴きそ行くなる 早稲田雁がね8-1566 大伴家持 
 雲隠り 鳴くなる雁の 行きて居む 秋田の穂立ち 繁くし思ほゆ8-1567 大伴家持
 然とあらぬ 5百代小田を 刈り乱り 田廬に居れば 都し思ほゆ8-1592 大伴坂上郎女
  
 妹が家の 門田を見むと うち出来し 心も著く 照る月夜かも8-1596 大伴家持
 我が蒔ける 早稲田の穂立ち 作りたる 縵そ見つつ 偲ばせ我が背8-1624 大伴坂上大嬢
 我妹子が 業と作れる 秋の田の 早稲穂の縵 見れど飽かぬかも8-1625 大伴家持
 佐保川の 水を堰上げて 植ゑし田を 刈れる初飯は ひとりなるべし8-1635 尼  大伴家持
  
 巨椋の 入江とよむなり 射目人の 伏見が田居に 雁渡るらし9-1699 柿本人麻呂 
 我妹子が 赤裳ひづちて 植ゑし田を 刈りて収めむ 倉なしの浜9-1710 柿本人麻呂
 (長歌) 9-1757 高橋虫麻呂 
 筑波嶺の 裾廻の田居に 秋田刈る 妹がり遣らむ 黄葉手折らな9-1758 高橋虫麻呂 
 石上 布留の早稲田の 穂には出でず 心の中に 恋ふるこのころ 9-1768 抜気大首 
  
 秋田刈る 仮廬の宿り にほふまで 咲ける秋萩 見れど飽かぬかも10-2100 作者未詳 
 娘子らに 行きあひの早稲を 刈る時に なりにけらしも 萩の花咲く10-2117 作者未詳
 秋の田の 我が刈りばかの 過ぎぬれば 雁が音聞こゆ 冬かたまけて10-2133 作者未詳 
 秋田刈る 仮廬を作り 我が居れば 衣手寒く 露そ置きにける10-2174 作者未詳 
 秋田刈る 苫手動くなり 白露し 置く穂田なしと 告げに来ぬらし10-2176 作者未詳 
  
 あしひきの 山田作る児 秀でずとも 縄だに延へよ 守ると知るがね10-2209 作者未詳 
 さ雄鹿の 妻呼ぶ山の 岡辺なる 早稲田は刈らじ 霜は降るとも10-2220 作者未詳 
 我が門に 守る田を見れば 佐保の内の 秋萩すすき 思ほゆるかも10-2221 作者未詳 
 恋ひつつも 稲葉かき別け 家居れば 乏しくもあらず 秋の夕風10-2230 作者未詳 
 秋田刈る 旅の廬りに しぐれ降り 我が袖濡れぬ 乾す人なしに10-2235 作者未詳 
  
 住吉の 崖を田に墾り 蒔きし稲 かくて刈るまで 逢はぬ君かも10-2244 作者未詳 
 大刀の後 玉纏田居に 何時までか 妹を相見ず 家恋ひ居らむ10-2245 作者未詳 
 秋の田の 穂の上に置ける 白露の 消ぬべくも我は 思ほゆるかも10-2246 作者未詳 
 秋の田の 穂向きの寄れる 片寄りに 我は物思ふ つれなきものを10-2247 作者未詳 
 秋田刈る 仮廬作り 廬りして あるらむ君を 見むよしもがも10-2248 作者未詳 
  
 鶴が音の 聞こゆる田居に 廬りして 我旅なりと 妹に告げこそ10-2249 作者未詳 
 春霞 たなびく田居に 廬つきて 秋田刈るまで 思はしむらく10-2250 作者未詳 
 橘を 守部の里の 門田早稲 刈る時過ぎぬ 来じとすらしも10-2251 作者未詳 
 秋の穂を しのに押しなべ 置く露の 消かもしなまし 恋ひつつあらずは10-2256 作者未詳 
  
 打つ田に 稗はしあまた ありと言へど 選らえし我そ 夜をひとり寝る11-2476 作者未詳 
 玉鉾の 道行き疲れ 稲席 しきても君を 見むよしもがも11-2643 作者未詳
 あしひきの 山田守る翁 置く蚊火の 下焦がれのみ 我が恋ひ居らく11-2649 作者未詳 
  
 上野 佐野田の苗の 群苗に 事は定めつ 今はいかにせも14-3418 東歌 
 稲搗けば かかる我が手を 今夜もか 殿の若子が 取りて嘆かむ14-3459 東歌 
 おして否と 稲は搗かねど 波のほの いたぶらしもよ 昨夜ひとり寝て14-3550 東歌 
  
 青楊の 枝伐り下ろし 湯種蒔き ゆゆしき君に 恋ひ渡るかも15-3603 作者未詳 
 人の植うる 田は植ゑまさず 今更に 国別れして 我はいかにせむ15-3746 作者未詳
  
 あらき田の 鹿猪田の稲を 倉に上げて あなひねひねし 我が恋ふらくは16-3848 忌部首黒麻呂 
 波羅門の つくれる小田を 食む烏 瞼晴れて 幡桙に居り16-3856 高宮王
  
 秋の田の 穂向き見がてり 我が背子が ふさ手折り来る をみなへしかも17-3943 大伴宿禰家持 
  
 天皇の 敷きます国の 天の下 四方の道には 馬の爪 い尽くす極み 舟舳の い泊つるまでに 古よ 今の現に 万調 奉るつかさと 作りたる その生業を 雨降らず 日の重なれば 植えし田も 蒔きし畑も 朝ごとに 凋み枯れ行く そを見れば 心を痛み みどり子の 乳乞ふがごとく 天つ水 仰ぎてそ待つ あしひきの 山のたをりに この見ゆる 天の白雲 海神の 沖つ宮辺に 立ち渡り との曇りあひて 雨も賜はね18-4122 大伴宿禰家持
  
 朝霧の たなびく田居に 鳴く雁を 留め得むかも 我がやどの萩19-4224 光明皇后 
 大君は 神にしませば 赤駒の 腹這ふ田居を 都と成しつ19-4260 大伴御行 
  


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