むらさき

ムラサキ   紫 紫草 牟良佐伎 武良前



あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る 
                       1−20 額田王

紫の にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆゑに 我恋ひめやも
                       1−21 大海人皇子 


ムラサキ ムラサキ科 

 日当たりの良い、やや乾燥した草原に生える多年草。高さは50〜80cmで、初夏に白い花を咲かす。かつては北海道から九州まで分布していたというが、今では自生のものはほとんど見られず、絶滅危惧種に指定されている。これは市川万葉植物園で栽培されていたもの。

 むらさきの根は染料として古く万葉の時代から栽培されていた。また、その根を乾燥させて、皮膚病、解熱、解毒、火傷などの薬用として利用されてきた。

 紫色は、位階の中でも最高位に対応する色として使われていたようで、その染料となる、むらさきも貴重であった。歌では気高い憧れ、愛情の表現として詠われているのが多い。

 1−20の歌は、天智天皇が皇族、群臣を連れて標野に遊猟に出かけたときの歌。袖を振るというのは愛のシグナル。大海人皇子が額田王に袖を振っているのを、野守が見ていますよという意味。

 それに対して大海人皇子は、紫のように美しいあなたが好ましくなかったら、どうして人妻と知りつつ恋などしましょうか、と答えている。

 額田王は、はじめ大海人皇子の妻となって十市皇女を産んでいるが、その後天智天皇の妻のひとりとなった。

 だから、この歌の遣り取りは相聞歌のようで問題になりそうだが、じつは雑歌に分類されている。ということは、遊猟後の宴会である公の場で歌ったと思われるもので、戯れ歌であったのかもしれない。  

 
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