梅 の 歌

巻 3



   
 ぬばたまの その夜の梅を た忘れて 折らず来にけり 思ひしものを3-392 大伴百代
 妹が家に 咲きたる梅の いつもいつも なりなむ時に 事は定めむ3-398 藤原八束
 妹が家に 咲きたる花の 梅の花 実にしなりなば かもかくもせむ3-399 藤原八束
 梅の花 咲きて散りぬと 人は言へど 我が標結ひし 枝ならめやも 3-400 大伴駿河麻呂 
 我妹子が 植ゑし梅の樹 見るごとに 心咽つつ 涙し流る 3-453 大伴旅人 
  

巻 4

   
 春の雨は いやしき降るに 梅の花 いまだ咲かなく いと若みかも4-786 大伴家持 
 うら若み 花咲きかたき 梅を植ゑて 人の言しみ 思ひそ我がする4-788 大伴家持
 春雨を 待つとにあらし 我がやどの 若木の梅も いまだ含めり4-792 藤原久須麻呂
  

巻 5

 
   
 正月立ち 春の来らば かくしこそ 梅を招きつつ 楽しき終へめ5-815 大弐紀卿
 梅の花 今咲けるごと 散り過ぎず 我が家の園に ありこせぬかも5-816 少弐小野大夫
 梅の花 咲きたる園の 青柳は 縵にすべく なりにけらずや5-817 少弐粟田大夫 
 春されば まづ咲くやどの 梅の花 ひとり見つつや 春日暮らさむ5-818 筑前守山上大夫
 世の中は 恋繁しゑや かくしあらば 梅の花にも なのましものを5-819 豊後守大伴大夫
  
 梅の花 今盛りなり 思ふどち かざしにしてな 今盛りなり5-820 筑後守葛井大夫
 青柳 梅との花を 折りかざし 飲みての後は 散りぬともよし5-821 笠沙弥
 梅の花 散らくはいづく しかすがに この城の山に 雪は降りつつ5-823 大監伴氏百代
 梅の花 散らまく惜しみ 我が園の 竹の林に うぐひす鳴くも5-824 少監阿氏奥島
 梅の花 咲きたる園の 青柳を 縵にしつつ 遊び暮らさな5-825 少監土氏百村
  
 うちなびく 春の柳と 我がやどの 梅の花とを いかにか別かむ5-826 大典史氏大原
 春されば 木末隠りて うぐひすそ 鳴きて去ぬなる 梅が下枝に5-827 少典山氏若麻呂
 人ごとに 折りかざしつつ 遊べども いやめずらしき 梅の花かも5-828 大判事丹氏麻呂
 梅の花 咲きて散りなば 桜花 継ぎて咲くべく なりにてあらずや5-829 薬師張氏福子
 万代に 年は来経とも 梅の花 絶ゆることなく 咲き渡るべし5-830 筑前介佐氏子首
  
 春なれば うべも咲きたる 梅の花 君を思ふと 夜眠も寝なくに 5-831 壱岐守坂氏安麻呂
 梅の花 折りてかざせる 諸人は 今日の間は 楽しくあるべし 5-832 神司荒氏稲布
 年のはに 春の来らば かくしこそ 梅をかざして 楽しく飲まめ 5-833 大令史野氏宿奈麻呂
 春さらば 逢はむと思ひし 梅の花 今日の遊びに 相見つるかも 5-835 薬師高氏義通
 梅の花 手折りかざして 遊べども 飽き足らぬ日は 今日にしありけり 5-836 陰陽師磯氏法麻呂
  
 春の野に 鳴くやうぐひす なつけむと 我が家の園に 梅が花咲く 5-837 算師志氏大道
 梅の花 散り紛ひたる 岡辺には うぐひす鳴くも 春かたまけて 5-838 大隈日榎氏鉢麻呂
 春の野に 霧立ち渡り 降る雪と 人の見るまで 梅の花散る 5-839 筑前日田氏真上
 春柳 縵に折りし 梅の花 誰か浮かべし 酒坏の上に 5-840 壱岐目村氏彼方
 うぐひすの 音聞くなへに 梅の花 我家の園に 咲きて散る見ゆ5-841 対馬目高氏老
  
 我がやどの 梅の下枝に 遊びつつ うぐひす鳴くも 散らまく惜しみ 5-842 薩摩目高氏海人
 梅の花 折りかざしつつ 諸人の 遊ぶを見れば 都しぞ思ふ 5-843 土師氏御道
 妹が家に 雪かも降ると 見るまでに ここだも紛ふ 梅の花かも 5-844 小野氏国堅
 うぐひすの 待ちかてにせし 梅が花 散らずありこそ 思ふ児がため 5-845 筑前掾門氏石足
 霞立つ 長き春日を かざせれど いやなつかしき 梅の花かも 5-846 小野氏淡理
  
 残りたる 雪に交じれる 梅の花 早くな散りそ 雪は消ぬとも 5-849 大伴旅人
 雪の色を 奪ひて咲ける 梅の花 今盛りなり 見む人もがも 5-850 大伴旅人
 我がやどに 盛りに咲ける 梅の花 散るべくなりぬ 見む人もがも 5-851 大伴旅人
 梅の花 夢に語らく みやびたる 花と我思ふ 酒に浮かべこそ 5-852 大伴旅人 
 後れ居て 長恋せずは み園生の 梅の花にも ならましものを 5-864 吉田連宣
  

巻 6

   
 梅柳 過ぐらく惜しみ 佐保の内に 遊びしことを 宮もとどろに6-949 作者未詳 
 我がやどの 梅咲きたりと 告げ遣らば 来と言ふに似たり 散りぬともよし6-1011 作者未詳
  

巻 8

   
 去年の春 い掘じて植ゑし 我がやどの 若木の梅は 花咲きにけり8-1423 中納言安倍広庭 
 我が背子に 見せむと思ひし 梅の花 それとも見えず 雪の降れれば8-1426 山部赤人
 霜雪も いまだ過ぎねば 思はぬに 春日の里に 梅の花見つ8-1434 大伴三林 
 含めりと 言ひし梅が枝 今朝降りし 沫雪にあひて 咲きぬらむかも8-1436 大伴村上 
 霞立つ 春日の里の 梅の花 山のあらしに 散りこすなゆめ 8-1437 大伴村上 
  
 霞立つ 春日の里の 梅の花 花に問はむと 我が思はなくに 8-1438 大伴駿河麻呂 
 風交じり 雪は降るとも 実にならぬ 我家の梅を 花に散らすな 8-1445 大伴坂上郎女
 闇ならば うべも来まさじ 梅の花 咲ける月夜に 出でまさじとや8-1452 紀女郎 
 我が岡に 盛りに咲ける 梅の花 残れる雪を まがへつるかも8-1640 大伴旅人 
 沫雪に 降らえて咲ける 梅の花 君がり遣らば よそへてむかも8-1641 角朝臣広弁 
  
 たな霧らひ 雪も降らぬか 梅の花 咲かぬが代に そへてだに見む8-1642 安倍朝臣奥道 
 引き攀ぢて 折らば散るべみ 梅の花 袖に扱入れつ 染まば染むとも8-1644 三野連石守 
 我がやどの 冬木の上に 降る雪を 梅の花かと うち見つるかも8-1645 巨勢朝臣宿奈麻呂 
 梅の花 枝に散るかと 見るまでに 風に乱れて 雪そ降り来る8-1647 忌部首黒麻呂 
 十二月には 沫雪降ると 知らねかも 梅の花咲く 含めらずして8-1648 紀小鹿女郎 
  
 今日降りし 雪に競ひて 我がやどの 冬木の梅は 花咲きにけり8-1649 大伴宿禰家持 
 沫雪の このころ継ぎて かく降らば 梅の初花 散りか過ぎなむ8-1651 大伴坂上郎女 
 梅の花 折りも折らずも 見つれども 今夜の花に なほしかずけり8-1652 他田広津娘子 
 今のごと 心を常に 思へらば まづ咲く花の 地に落ちめやも8-1653 県犬養娘子 
 酒坏に 梅の花浮かべ 思ふどち 飲みての後は 散りぬともよし8-1656 大伴坂上郎女 
  
 梅の花 散らすあらしの 音のみに 聞きし我妹を 見らくし良しも8-1660 大伴宿禰駿河麻呂
 ひさかたの 月夜を清み 梅の花 心開けて 我が思へる君8-1661 紀小鹿女郎
  

巻 10

   
 梅の花 咲ける岡辺に 家居れば 乏しくもあらず うぐひすの声10-1820 作者未詳 
 梅の花 咲き散り過ぎぬ しかすがに 白雪庭に 降りしきりつつ10-1834 作者未詳
 梅が枝に 鳴きて移ろふ うぐひすの 羽白たえに 沫雪そ降る10-1840 作者未詳 
 山高み 降り来る雪を 梅の花 散りかも来ると 思ひつるかも10-1841 作者未詳 
 雪をおきて 梅をな恋ひそ あしひきの 山片づきて 家居せる君10-1842 作者未詳 
  
 梅の花 取り持ち見れば 我がやどの 柳の眉し 思ほゆるかも10-1853 作者未詳 
 うぐひすの 木伝ふ梅の うつろへば 桜の花の 時かたまけぬ10-1854 作者未詳 
 我がかざす 柳の糸を 吹き乱る 風にか妹が 梅の散るらむ10-1856 作者未詳 
 年のはに 梅は咲けども うつせみの 世の人我し 春なかりけり10-1857 作者未詳 
 うつたへに 鳥ははまねど 縄延へて 守らまく欲しき 梅の花かも10-1858 作者未詳 
  
 馬並めて 高の山辺を 白たへに にほはしたるは 梅の花かも10-1859 作者未詳 
 雪見れば いまだ冬なり しかすがに 春霞立ち 梅は散りつつ10-1862 作者未詳 
 春されば 散らまく惜しき 梅の花 しましは咲かず 含みてもがも10-1871 作者未詳 
 いつしかも この夜の明けむ うぐひすの 木伝ひ散らす 梅の花見む10-1873 作者未詳 
 ももしきの 大宮人は 暇あれや 梅をかざして ここに集へる10-1883 作者未詳 
  
 梅の花 咲き散る園に 我行かむ 君が使ひを 片待ちがてり10-1900 作者未詳 
 梅の花 しだり柳に 折り交へ 花にそなへば 君に逢はむかも10-1904 作者未詳 
 梅の花 我は散らさじ あをによし 奈良なる人も 来つつ見るがね10-1906 作者未詳 
 梅の花 散らす春雨 いたく降る 旅にや君が廬りせるらむ 10-1918 作者未詳 
 梅の花 咲きて散りなば 我妹子を 来むか来じかと 我が松の木そ10-1922 作者未詳 
  
 誰が園の 梅の花そも ひさかたの 清き月夜に ここだ散り来る10-2325 作者未詳 
 梅の花 まづ咲く枝を 手折りてば つとと名付けて よそへてむかも10-2326 作者未詳 
 誰が園の 梅にかありけむ ここだくも 咲きてあるかも 見が欲しまでに10-2327 作者未詳 
 来て見べき 人もあらなくに 我家なる 梅の初花 散りぬともよし10-2328 作者未詳 
 雪寒み 咲きには咲かず 梅の花 よしこのころは かくてもあるがね10-2329 作者未詳 
  
 妹がため ほつ枝の梅を 手折るとは 下枝の露に 濡れにけるかも10-2330 作者未詳 
 咲き出照る 梅の下枝に 置く露の 消ぬべく妹に 恋ふるこのころ10-2335 作者未詳 
 梅の花 それとも見えず 降る雪の いちしろけむな 間使ひ遣らば10-2344 作者未詳 
 我やどに 咲きたる梅を 月夜良み 夕々見せむ 君をこそ待て10-2349 作者未詳 
  

巻 17

   
 み冬継ぎ 春は来れど 梅の花 君にしあらねば 招く人もなし17-3901 大伴宿禰書持 
 梅の花 み山としみに ありともや かくのみ君は 見れど飽かにせむ17-3902 大伴宿禰書持
 春雨に 萌えし柳か 梅の花 共に後れぬ 常の物かも17-3903 大伴宿禰書持 
 梅の花 何時は折らじと 厭はねど 咲きの盛りは 惜しきものなり17-3904 大伴宿禰書持 
 遊ぶ内の 楽しき庭に 梅柳 折りかざしてば 思ひなみかも17-3905 大伴宿禰書持 
 み園生の 百木の梅の 散る花し 天に飛び上がり 雪と降りけむ17-3906 大伴宿禰書持 
  

巻 18

   
 梅の花 咲き散る園に 我行かむ 君が使ひを 片待ちがてら18-4041 田辺史福麻呂 
 雪の上に 照れる月夜に 梅の花 折りて送らむ 愛しき児もがも18-4134 大伴宿禰家持
  

巻 19

   
 春のうちの 楽しき終へは 梅の花 手折り招きつつ 遊ぶにあるべし19-4174 大伴宿禰家持 
 君が行き もし久にあらば 梅柳 誰と共にか 我かづらかむ19-4238 大伴宿禰家持
 春日野に 斎く三諸の 梅の花 栄えてあり待て 帰り来るまで19-4241 藤原朝臣清河 
 袖垂れて いざ我が園に うぐひすの 木伝ひ散らす 梅の花見に19-4277 藤原永手朝臣 
 あしひきの 山下日影 かづらける 上にや更に 梅をしのはむ19-4278 大伴宿禰家持 
  
 言繁み 相問はなくに 梅の花 雪にしをれて うつろはむかも19-4282 石上朝臣宅嗣 
 梅の花 咲けるが中に 含めるは 恋ひや隠れる 雪を待つとか19-4283 中務大輔茨田王 
 うぐひすの 鳴きし垣内に にほへりし 梅この雪に うつろふらむか19-4287 大伴宿禰家持
  

巻 20

   
 恨めしく 君はもあるか やどの梅の 散り過ぐるまで見しめずありける20-4496 大原今城真人 
 見むと言はば 否と言はめや 梅の花 散り過ぐるまで 君が来まさぬ20-4497 中臣清麻呂朝臣
 梅の花 香をかぐはしみ 遠けども 心もしのに 君をしそ思ふ20-4500 市原王 
 梅の花 咲き散る春の 長き日を 見れども飽かぬ 磯にもあるかも20-4502 甘南備伊香真人 
  


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