萩 の 歌

巻 2・3

   
 我妹子に 恋ひつつあらずは 秋萩の 咲きて散りぬる 花にあらましを2-120 弓削皇子
 高円の 野辺の秋萩 いたづらに 咲きか散るらむ 見る人なしに2-231 笠金村歌集
 高円の 野辺の秋萩 な散りそね 君が形見に 見つつ偲はむ2-233 (或本の歌)
 かくのみに ありけるものを 萩の花 咲きてありやと 問ひし君はも3-455 余明軍
  

巻 6・7

   
 指進乃 栗栖の小野の 萩の花 散らむ時にし 行きて手向けむ6-970 大伴旅人
 春日野に 咲きたる萩は 片枝は いまだ含めり 言な絶えそね7-1363 作者未詳
 見まく欲り 恋ひつつ待ちし 秋萩は 花のみ咲きて 成らずかもあらむ7-1364 作者未詳
 我妹子が やどの秋萩 花よりは 実になりてこそ 恋増さりけり7-1365 作者未詳
  
 他に長歌 6-1047 
  

巻 8

   
 百済野の 萩の古枝に 春待つと 居りしうぐひす 鳴きにけむかも8-1431 山部赤人
 ほととぎす 声聞く小野の 秋風に 萩咲きぬれや 声のともしき8-1468 小治田広瀬王
 秋萩は 咲きぬべからし 我がやどの 浅茅が花の 散りぬる見れば8-1514 穂積皇子
 をみなへし 秋萩交じる 蘆城の野 今日を始めて 万代に見む8-1530 作者未詳
 草枕 旅行く人も 行き触れば にほひぬべくも 咲ける萩かも 8-1532 笠朝臣金村
  
 伊香山 野辺に咲きたる 萩見れば 君が家なる 尾花し思ほゆ 8-1533 笠朝臣金村
 をみなへし 秋萩折れれ 玉桙の 道行きづとと 乞はむ児がため8-1534 石川朝臣老夫
 夕に逢ひて 朝面なみ 名張野の 萩は散りにき 黄葉はや継げ8-1536 縁達師
 我が岡に さ雄鹿来鳴く 初萩の 花妻問ひに 来鳴くさ雄鹿8-1541 大伴旅人
 我が岡の 秋萩の花 風を痛み 散るべくなりぬ 見む人もがも8-1542 大伴旅人
  
 さ雄鹿の 萩に貫き置ける 露の白玉 あふさわに 誰の人かも 手に巻かむ
 ちふ
8-1547 藤原朝臣八束
 秋萩の 散りのまがひに 呼び立てて なくなる鹿の 声の遥けさ8-1550 湯原王
 明日香川 行き廻る岡の 秋萩は 今日降る雨に 散りか過ぎなむ8-1557 丹比真人国人 
 鶉鳴く 古りにし郷の 秋萩を 思ふ人どち 相見つるかも8-1558 沙弥尼等 
 秋萩は 盛り過ぐるを いたづらに かざしに挿さず 帰りなむとや8-1559 沙弥尼等 
  
 妹が目を 跡見の崎の 秋萩は この月ごろは 散りこすなゆめ8-1560 大伴坂上郎女 
 我がやどの 一群萩を 思ふ児に 見せずほとほと 散らしつるかも8-1565 大伴家持 
 雲の上に 鳴きつる雁の 寒きなへ 萩の下葉は もみちぬるかも8-1575 作者未詳 
 朝戸開けて 物思ふ時に 白露の 置ける秋萩 見えつつもとな8-1579 文忌寸馬養 
 さ雄鹿の 木立ち鳴く野の 秋萩は 露霜負ひて 散りにしものを8-1580 文忌寸馬養
  
 秋萩の 枝もとををに 置く露の 消なば消ぬとも 色に出でめやも8-1595 大伴宿禰像見 
 秋の野に 咲ける秋萩 秋風に なびける上に 秋の露置けり8-1597 大伴宿禰家持 
 さ雄鹿の 朝立つ野辺の 秋萩に 玉と見るまで 置ける白露8-1598 大伴宿禰家持 
 さ雄鹿の 胸別けにかも 秋萩の 散り過ぎにける 盛りかも去ぬる8-1599 大伴宿禰家持 
 妻恋に 鹿鳴く山辺の 秋萩は 露霜寒み 盛り過ぎ行く8-1600 石川朝臣広成 
  
 高円の 野辺の秋萩 このころの 暁露に 咲きにけむかも8-1605 大伴宿禰家持 
 秋萩の 上に置きたる 白露の 消かもしなまし 恋ひつつあらずは8-1608 弓削皇子 
 宇陀の野の 秋萩しのぎ 鳴く鹿も 妻に恋ふらく 我にはまさじ8-1609 丹比真人 
 秋萩に 置きたる露の 風吹きて 落つる涙は 留めかねつも8-1617 山口女王 
 玉に貫き 消たず賜らむ 秋萩の 末わくらばに 置ける白露8-1618 湯原王 
  
 我がやどの 萩花咲けり 見に来ませ いま二日だみ あらば散りなむ8-1621 巫部麻蘇娘子 
 我がやどの 秋の萩咲く 夕影に 今も見てしか 妹が姿を8-1622 大伴田村大嬢 
 我がやどの 萩の下葉は 秋風も いまだ吹かねば かくもそみてる8-1628 大伴宿禰家持 
 手もすまに 植えし萩にや かへりては 見れども飽かず 心尽くさむ8-1633 作者未詳 
  
 他に題詞に   8-1548  
  

巻 9

   
 後れ居て 我はや恋ひむ 印南野の 秋萩見つつ 去なむ子故に9-1772 阿倍大夫
  
 他に長歌 9-1761 9-1790 
  

巻 10

   
 我が待ちし 秋萩咲きぬ 今だにも にほひに行かな 彼方人に10-2014 柿本人麻呂歌集
 さ雄鹿の 心相思ふ 秋萩の しぐれの降るに 散らくし惜しも10-2094 柿本人麻呂歌集
 夕されば 野辺の秋萩 末若み 露に枯れけり 秋待ちかてに10-2095 柿本人麻呂歌集
 ま葛原 なびく秋風 吹くごとに 阿太の大野の 萩の花散る10-2096 作者未詳
 雁がねの 来鳴かむ日まで 見つつあらむ この萩原に 雨な降りそね10-2097 作者未詳
  
 奥山に 住むといふ鹿の 夕さらず 妻問ふ萩の 散らまく惜しも10-2098 作者未詳
 白露の 置かまく惜しみ 秋萩を 折のみ折りて 置きや枯らさむ10-2099 作者未詳 
 秋田刈る 仮廬の宿り にほふまで 咲ける秋萩 見れど飽かぬかも10-2100 作者未詳 
 我が衣 摺れるにはあらず 高松の 野辺行きしかば 萩の摺れるそ10-2101 作者未詳 
 この夕 秋風吹きぬ 白露に 争ふ萩の 明日咲かむ見む10-2102 作者未詳 
  
 秋風は 涼しくなりぬ 馬並めて いざ野に行かな 萩の花見に10-2103 作者未詳 
 春されば 霞隠りて 見えざりし 秋萩咲きぬ 折りてかざさむ10-2105 作者未詳 
 さ額田の 野辺の秋萩 時なれば 今盛りなり 折りてかざさむ10-2106 作者未詳 
 ことさらに 衣は摺らじ をみなへし 佐紀野の萩に にほひて居らむ10-2107 作者未詳 
 秋風は とくとく吹き来 萩の花 散らまく惜しみ 競ひ立つ見む10-2108 作者未詳 
  
 我がやどの 萩の末長し 秋風の 吹きなむ時に 咲かむと思ひて10-2109 作者未詳 
 人皆は 萩を秋と言ふ よし我は 尾花が末を 秋とは言はむ10-2110 作者未詳 
 玉梓の 君が使ひの 手折り来る この秋萩は 見れど飽かぬかも10-2111 作者未詳 
 我がやどに 咲ける秋萩 常にあらば 我が待つ人に 見せましものを10-2112 作者未詳 
 手寸十名相 植ゑしく著く 出で見れば やどの初萩 咲きにけるかも10-2113 作者未詳 
  
 我がやどに 植ゑ生ほしたる 秋萩を 誰か標刺す 我に知らえず10-2114 作者未詳 
 白露に 争ひかねて 咲ける萩 散らば惜しけむ 雨な降りそね10-2116 作者未詳 
 娘子らに 行きあひの早稲を 刈る時に なりにけらしも 萩の花咲く10-2117 作者未詳 
 朝霧の たなびく小野の 萩の花 今か散るらむ いまだ飽かなくに10-2118 作者未詳 
 恋しくは 形見にせよと 我が背子が 植ゑし秋萩 花咲きにけり10-2119 作者未詳 
  
 秋萩に 恋尽くさじと 思へども しゑやあたらし またも逢はめやも10-2120 作者未詳 
 秋風は 日に異に吹きぬ 高円の 野辺の秋萩 散らまく惜しも10-2121 作者未詳 
 ますらをの 心はなくて 秋萩の 恋のみにやも なづみてありなむ10-2122 作者未詳 
 我が待ちし 秋は来りぬ 然れども 萩の花そも いまだ咲かずける10-2123 作者未詳 
 見まく欲り 我が待ち恋ひし 秋萩は 枝もしみみに 花咲きにけり10-2124 作者未詳 
  
 春日野の 萩は散りなば 朝東風の 風にたぐひて ここに散り来ね10-2125 作者未詳 
 秋萩は 雁に逢はじと 言へればか 声を聞きては 花に散りぬる10-2126 作者未詳 
 秋さらば 妹に見せむと 植えし萩 露霜負ひて 散りにけるかも10-2127 作者未詳 
 さ雄鹿の 妻ととのふと 鳴く声の 至らぬ極み なびけ萩原10-2142 作者未詳 
 君に恋ひ うらびれ居れば 敷の野の 秋萩しのぎ さ雄鹿鳴くも10-2143 作者未詳 
  
 雁は来ぬ 萩は散りぬと さ雄鹿の 鳴くなる声も うらぶれにけり10-2144 作者未詳 
 秋萩の 恋も尽きねば さ雄鹿の 声い継ぎい継ぎ 恋こそ増され10-2145 作者未詳 
 秋萩の 散り行く見れば おほほしみ 妻恋すらし さ雄鹿鳴くも10-2150 作者未詳 
 秋萩の 散り過行かば さ雄鹿は わび鳴きせむな 見ずはともしみ10-2152 作者未詳 
 秋萩の 咲きたる野辺は さ雄鹿そ 露を別けつつ 妻問ひしける10-2153 作者未詳 
  
 なぞ鹿の わび鳴きすなる けだしくも 秋野の萩や 繁く散るらむ10-2154 作者未詳  
 秋萩の 咲きたる野辺の さ雄鹿は 散らまく惜しみ 鳴き行くものを10-2155 作者未詳 
 秋萩に 置ける白露 朝な朝な 玉としそ見る 置ける白露10-2168 作者未詳 
 秋萩の 枝もとををに 露霜置き 寒くも時は なりにけるかも10-2170 作者未詳 
 白露と 秋の萩とは 恋ひ乱れ 別くこと難き 我が心かも10-2171 作者未詳 
  
 白露を 取らば消ぬべし いざ子ども 露に競ひて 萩の遊びせむ10-2173 作者未詳 
 このころの 秋風寒し 萩の花 散らす白露 置きにけらしも10-2175 作者未詳 
 このころの 暁露に 我がやどの 萩の下葉は 色付きにけり10-2182 作者未詳 
 秋風の 日に異に吹けば 露を重み 萩の下葉は 色付きにけり10-2204 作者未詳 
 秋萩の 下葉もみちぬ あらたまの 月の経ぬれば 風をいたみかも10-2205 作者未詳 
  
 秋萩の 下葉の黄葉 花に継ぎ 時過ぎ行かば 後恋ひむかも10-2209 作者未詳 
 このころの 暁露に 我がやどの 秋の萩原 色付きにけり10-2213 作者未詳 
 さ夜ふけて しぐれな降りそ 秋萩の 本葉の黄葉 散らまく惜しも10-2215 作者未詳 
 我が門に 守る田を見れば 佐保の内の 秋萩すすき 思ほゆるかも10-2221 作者未詳 
 我が背子が かざしの萩に 置く露を さやかに見よと 月は照るらし10-2225 作者未詳 
  
 萩の花 咲きのををりを 見よとかも 月夜の清き 恋増さらくに10-2228 作者未詳 
 萩の花 咲きたる野辺に ひぐらしの 鳴くなるなへに 秋の風吹く10-2231 作者未詳 
 秋萩の 咲きたる野辺の 夕露に 濡れつつ来ませ 夜はふけぬとも10-2252 作者未詳 
 秋萩の 上に置きたる 白露の 消かもしなまし 恋ひつつあらずは10-2254 作者未詳 
 我がやどの 秋萩の上に 置く露の いちしろくしも 我恋ひめやも10-2255 作者未詳 
  
 秋萩の 枝もとををに 置く露の 消かもしなまし 恋ひつつあらずは10-2258 作者未詳 
 秋萩の 上に白露 置くごとに 見つつそ偲ふ 君が姿を10-2259 作者未詳 
 秋萩を 散らす長雨の 降る頃は ひとり起き居て 恋ふる夜そ多き10-2262 作者未詳 
 草深み こほろぎさわに 鳴くやどの 萩見に君は いつか来まさむ10-2271 作者未詳 
 何すとか 君を厭はむ 秋萩の その初花の 嬉しきものを10-2273 作者未詳 
  
 雁がねの 初音聞きて 咲き出たる やどの秋萩 見に来我が背子10-2276 作者未詳 
 萩の花 咲けるを見れば 君に逢はず まことも久に なりにけるかも10-2280 作者未詳 
 ゆくりなく 今も見が欲し 秋萩の しなひにあるらむ 妹が姿を10-2284 作者未詳 
 秋萩の 花野のすすき 穂には出でず 我が恋ひ渡る 隠り妻はも10-2285 作者未詳 
 我がやどに 咲きし秋萩 散り過ぎて 実になるまでに 君に逢はぬかも10-2286 作者未詳 
  
 我がやどの 萩咲きにけり 散らぬ間に はや来て見べし 奈良の里人10-2287 作者未詳 
 藤原の 古りにし里の 秋萩は 咲きて散りにき 君待ちかねて10-2289 作者未詳 
 秋萩を 散り過ぎぬべみ 手折り持ち 見れどもさぶし 君にしあらねば10-2290 作者未詳 
 秋津野の 尾花刈り添へ 秋萩の 花を葺かさね 君が仮廬に10-2292 作者未詳 
 咲けりとも 知らずしあらば 黙もあらむ この秋萩を 見せつつもとな10-2293 作者未詳 
  

巻 13・15

   
 秋萩に にほへる我が裳 濡れぬとも 君がみ舟の 綱し取りてば15-3656 阿倍朝臣継麻呂
 秋の野を にほはす萩は 咲けれども 見る験なし 旅にしあれば15-3677 遣新羅使人
 帰り来て 見むと思ひし 我がやどの 秋萩すすき 散りにけむかも15-3681 秦田麻呂
  
 他に長歌 13-3324 15-3691 
  

巻 17・19

   
 我がやどの 萩咲きにけり 秋風の 吹かむを待たば いと遠みかも19-4219 大伴宿禰家持
 朝霧の たなびく田居に 鳴く雁を 留め得むかも 我がやどの萩19-4224 光明皇后
 石瀬野に 秋萩しのぎ 馬並めて 初鳥狩だに せずや別れむ19-4249 大伴宿禰家持
 君が家に 植ゑたる萩の 初花を 折りてかざさな 旅別るどち19-4252 久米朝臣広縄
 立ちて居て 待てど待ちかね 出でて来し 君にここに逢ひ かざしつる萩19-4253 大伴宿禰家持 
  
 他に長歌 17-3957 19-4154 
  

巻 20

   
 天雲に 雁そ鳴くなる 高円の 萩の下葉は もみちあへむかも20-4296 中臣清麻呂朝臣
 をみなへし 秋萩しのぎ さ雄鹿の 露別け鳴かむ 高円の野そ20-4297 大伴宿禰家持
 宮人の 袖付け衣 秋萩に にほひ宜しき 高円の宮20-4315 大伴宿禰家持
 秋の野に 露負へる萩を 手折らずて あたら盛りを 過ぐしてむとか20-4318 大伴宿禰家持
 ますらをの 呼び立てしかば さ雄鹿の 胸別け行かむ 秋野萩原20-4320 大伴宿禰家持 
  
 我が背子が やどなる萩の 花さかむ 秋の夕は 我を偲はせ20-4444 大原真人今城 
 秋風の 末吹きなびく 萩の花 共にかざさず 相か別れむ20-4515 大伴宿禰家持 
  


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