忘れ草
ヤブカンゾウ 萱草
忘れ草 我が紐に付く 香具山の 古りにし里を 忘れむがため 3−334 大伴旅人 忘れ草 我が下紐に 着けたれど 醜の醜草 言にしありけり 4−727 大伴家持 忘れ草 我が紐に付く 時となく 思ひ渡れば 生けりともなし 12−3060 柿本人麻呂歌集 忘れ草 垣もしみみに 植えたれど 醜の醜草 なほ恋ひにけり 12−3062 柿本人麻呂歌集 ヤブカンゾウ ユリ科 ワスレグサ属 道端や土手などに咲く多年草。花期は7〜8月。1日花で、朝開き午後には閉じてしまう。花は八重咲で、雄しべも雌しべも花弁化している。 有史以前に中国から帰化したものといわれているが、中国原産のホンカンゾウ(漢名、菅草)は日本に無く、日本にあるノカンゾウ、ヤブカンゾウ、ハマカンゾウは変種とされている。 中国では菅草の花を身につけていると、憂苦が忘れられるということわざがある。 334の旅人の歌意は、忘れ草を私の紐につけている 香具山のあるあの懐かしい里を忘れようとして。 大伴旅人が筑紫在任のときに詠ったもので、強い望郷の思いを断ち切ろうとしたのだろう。 一方、旅人の子家持の歌は忘れ草の効果のないことを罵っている。恋いの苦しみから逃れようと、忘れ草を下紐に着けてみたが、このアホ草め、名前ばかりで、全く効果がないではないか。と言いながらより強い恋心を相手に伝えているのでしょう。贈った相手は大伴坂上大嬢。醜(しこ)は醜いものを罵って言う語。 似た歌が3062。垣根に隙間無く植えたけれどやはり効果がなく、なお恋いは募るばかり。もっと素直に打ち明けていますね。 |