あざさ

アサザ   阿邪左



うちひさつ 三宅の原ゆ ひた土に 足踏み貫き 夏草を 腰になづみ いかなるや 人の児故そ 通はすも我子 うべなうべな 母は知らじ うべなうべな 父は知らじ 蜷の腸 か黒き髪に ま木綿もち あざさ結ひ垂れ 大和の 黄楊の小櫛を 押へ刺す うらぐはし児 それぞ我妻
                    巻18−3295 作者未詳


アサザ リンドウ科 アサザ属

 アサザは池や沼に生える多年性の水草。本州から九州にかけて分布する。水底の泥の中に根を張り、長い茎を出して水面に葉を浮かべている。花期は6〜8月で、花径3cmほどの黄色い可愛い花を咲かせるが、朝開いて昼には閉じてしまう1日花。

 アサザを詠った歌はこの1首のみであるが、ここでは髪の飾りとして詠っている。黒髪に黄色い可憐な花を挿すことにより、美しい妻のことを褒め父母にアピールしている。

 この歌は貧窮問答歌で、「うちひさつ」から「通はすも我子」までの前半部が両親から息子に対する問いの部分で、それに対し息子が答えているのが後半部。
 両親が息子に、三宅の原を、地べたに裸足で踏み込んで、夏草を腰に絡ませていったいどこの娘さんゆえに通っているんだね。と問いかけているのに対し、息子がごもっともごもっとも、母さんや父さんはご存知ないでしょうが、蜷の腸のような黒い髪に、木綿の紐であざさを結ひ垂らし大和の黄楊の小櫛を押えに刺している美しい娘、それが私の妻なんですよ。と答えている。

 反歌に、「父母に 知らせぬ児故 三宅道の 夏野の草を なづみ(苦労しながら)来るかも(3296)」とあるように、両親が息子の嫁の顔を知らないということはよくあったらしい。

 
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