は ね ず

ニワウメ   翼酢 波祢受 唐棣



思はじと 言ひてしものを はねず色の 移ろひやすき 我が心かも
                 4―657 大伴坂上郎女

夏まけて 咲きたるはねず ひさかたの 雨うち降らば うつろひなむか
                 8―1485 大伴家持

山吹の にほへる妹が はねず色の 赤裳の姿 家に見えつつ
                11―2786 作者未詳

はねす色の うつろひ易き 心あれば 年をそ来経る 言は絶えずて
                12―3074 作者未詳



 ニワウメ バラ科 サクラ属

 はねすの現在名はニワウメ。ニワウメの原産地は中国で、わが国へは奈良時代には既に渡来していたと言われている。

 高さ1〜2mの落葉低木で、細い枝に1〜1.3cmの5弁の可愛い花を数多くつける。果実は球形で、赤く熟すと食べられる。花が可愛いのと、低木のため庭木や鉢植えとして好まれている。

 花は葉よりも先に咲き、初め紅色であるが、すぐに淡紅色から白色へと褪せていく。この色の褪せ易いところから、恋の心変わりの比喩に使われており、うつろひやすしの枕詞になっている。

 657の歌意は、もう思はないでおこうと思っていたのに、やっぱり恋しくなってしまった。なんと変わりやすい私の心であることか。

 大伴坂上郎女は、この前の大伴宿禰駿河麻呂の歌3首(653〜655)に応えて、私だけがあなたを恋しているのですとか、引き離そうとする人の中傷など聞かないでくださいとか、逢っている時くらいは優しい言葉を並べてくださいといった激しい恋の歌6首(656〜661)を返している。



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