たかべ・をかも

コガモ   高部 乎加母 



人漕がず あらくも著し 潜きする 鴛鴦とたかべと 舟の上に住む
                     3−258 鴨君足人

高山に たかべさ渡り 高々に 我が待つ君を 待ち出でむかも
                    11−2804 作者未詳

沖に住も 小鴨のもころ 八尺鳥 息づく妹を 置きて来ぬかも
                    14−3527 東歌

 鴨を詠んだ歌は45首ある。鳥の中でも多い方で5番目となっている。それだけ身近な鳥として親しまれていたのだろう。ただ、大半は鴨というだけで、今風にカルガモ、オナガガモ、マガモと言ったように分けられていない。そんな中でこの3首の内2首についてははっきりしている。たかべはコガモの古名。

 3527の小(を)鴨はどうだろう。小鴨のもころは、をがものようなという意味。八尺鳥(やさかどり)はカイツブリ。沖に住む小鴨のもころが八尺鳥に掛かるという説がある。カイツブリの比喩と見るならば、同じくらいの大きさからこれはコガモと思われる。

 しかし、この歌の、沖に住む小鴨のもころは、遠く置いてきた妹に、そして八尺鳥は深く息をつぐという意味でその妹の溜息に掛かっているのではないだろうか。

 歌意は、沖合いに住むコガモのように、カイツブリのごとく深く溜息をつく妻を置いてきてしまった。「住も」は「住む」の東国の訛り。
 これは悲しみで深く溜息をつく妻を置いて旅立ってきた東の国の防人の歌だろうか。

 コガモは冬鳥。10月頃飛来し5月頃まで日本で越冬する。カモの仲間では最も小さい。内陸部の湖沼、池、河川などに棲む。オシドリも同じ環境に棲むので、鴛鴦とたかべというように並べられる。とすると沖に住むということと環境が異なるように思うが、これは遠くを表す意味か。


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