にほどり

カイツブリ(1)   鳰鳥 丹穂鳥 尓保杼里



にほ鳥の 潜く池水 心あらば 君に我が恋ふる 心示さね
                   4−726 大伴坂上郎女

思ひにし 余りにしかば にほ鳥の なづさひ来しを 人見けむかも
                  11−2492 柿本人麻呂歌集

にほ鳥の 葛飾早稲を にへすとも そのかなしきを 外に立てめやも
                  14−3386 下総国の歌

にほ鳥の 息長川は 絶えぬとも 君に語らむ 言尽きめやも
                  20−4458 馬史国人

他に長歌 5-794 15-3627 15-4106



 カイツブリ カイツブリ目 カイツブリ科

 古くは、にほどりとして知られている。湖沼、池、川、内湾などで生息し、潜水して魚を獲ったり、水面や水草の上の昆虫も食べる。留鳥だが、積雪の多く水面が凍結するようなところでは漂鳥。
 万葉歌では、長く水に潜る習性などを見て詠み込んでんでいる。

 725の歌は、大伴坂上郎女が聖武天皇に対する敬慕の思いを歌った2首のうちの1首。にほ鳥が潜る池よ、心あるなら私の敬慕の思いを天皇に示してくれ、と願っている。これは少し控え目。
 もう1首の726は、「外に居て 恋ひつつあらずは 君が家の 池に住むといふ 鴨にあらましを」とかなり積極的。

 3386は、東歌。葛飾地方には、新米を神に供える新嘗の日には原則として未婚の娘が1人だけ残って物忌みして神を待ち、他のものは屋内に入れないという習わしがあった。そんなときでも、恋人が訪ねてきたら、外に待たせておくことが出来ようか。いや、出来ないといった娘の恋心を歌っている。
 にほ鳥はよく潜るので、潜く(かづく)から同音の葛飾に掛けた枕詞。

 4458の息長川は、近江の伊吹山に発し、琵琶湖に注ぐ今の天野川のこと。にほ鳥は長く潜ることから、こちらは息長の枕詞となっている。

 



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