や ま す げ

ヤブラン   山菅 山草 夜麻須気 夜麻須我



咲く花は うつろふ時あり あしひきの 山菅の根し 長くはありけり
              20−4484 大伴宿禰家持

あしひきの 名に負ふ山菅 押し伏せて 君し結ばば 逢はざらめやも
              11−2477 柿本人麻呂歌集


ヤブラン ユリ科 ヤブラン属

 やますげの現在名はヤブラン。あるいはジャノヒゲともいわれる。 林床などに生えるユリ科の常緑の多年草。丈夫でよく茂り、花期は8〜10月。球根は解熱、強壮剤になる。

 4484の歌。家持がこの歌を詠んだのは、敬愛していた橘諸兄が天平宝字元年(757)1月に薨じ、7月にはその子奈良麻呂や大伴池主らが、藤原仲麻呂排斥を企てて露見。多くの者が処罰された頃だった。大伴家持はその企てを知っていたが加担しなかった。

 左注に、右の一首、大伴宿禰家持、物色の変化ふことを悲しび怜びて作る。とあるが、親しくしていた橘奈良麻呂や大伴池主らが亡くなったのを悲しんでの歌だろう。自分をやますげの根にたとえているのか。

 歌の意は、咲く花は 散っていく時もある 山菅の根は 外(世)に出ることも無いが いつまでも変わりなくある。

 この頃藤原仲麻呂は、孝謙天皇の信任を得て紫微内相となるなど絶頂期であったが、7年後には孝謙天皇と親密になった弓削道鏡を排斥しようとの企てが露見し、近江で殺される。なんだかそれをも予感させるような歌でもある。

 2477の歌の意は、あしひきの山を名に持つ山菅のように、押し倒して強くあなたが交わりを結ぼうとなさるのでしたら、逢わずにおくものですか。
 煮え切らない男に対する、ずいぶん積極的な誘いの歌のようですね。  

 
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