つ  た

テイカカズラ   都多



つのさはふ 石見の海の 言さへく 辛の崎なる いくりにそ 深海松生ふる 荒礒にそ 玉藻は生ふる 玉藻なす なびき寝し児を 深海松の 深めて思へど さ寝し夜は いくだもあらず 延ふつたの 別れし来れば 肝向かふ 心を痛み 思ひつつ かへり見すれど 大舟の 渡の山の 黄葉の 散りのまがひに 妹が袖 さやにも見えず 妻ごもる 屋上の山の 雲間より 渡らふ月の 惜しけども 隠らひ来れば 天伝ふ 入日さしぬれ ますらをと 思へる我も しきたへの 衣の袖は 通りて濡れぬ
            巻2−135 柿本朝臣人麻呂

他に長歌 巻9−1804 巻13−3291 巻17−3991 巻19ー4220

キョウチクトウ科 テイカカズラ属

 万葉集のつたは、現在名テイカカズラとされている。
 テイカカズラは北海道を除き、本州から九州にかけて分布するつる性の常緑樹。5〜6月頃に直径3cmくらいの白い芳香のある花をつける。花は初め白いが徐々にに淡黄色に変わっていく。庭木としても植えられている。

 根元の茎の太さは直径5〜8cmくらいにもなり、長さは10m位まで伸び、木や岩を這い伝っていく。この蔓が方々に枝分かれしながら伸びていくところから、万葉集では別れに掛かる枕詞として詠まれている。

 135の歌は、石見国に赴任していた柿本人麻呂が、愛する妻と別れて京へ帰るときに詠った嘆きの歌である。
 歌意は、石見の海の辛崎の荒礒に生える玉藻のように、横になって寝た妻を深く思うが、一緒に寝た夜はいくばくもなく別れてきたので、心切なく思いつつ振り返ってみるが、渡の山の黄葉に隠れて妻の袖もはっきり見えない。名残惜しくてならず、ますらをだと思っていた私も衣の袖が涙で濡れてしまった。




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