さわあららぎ

サワヒヨドリ   沢蘭



    天皇・大后共に大納言藤原家に幸す日に、もみてる沢蘭一株
    抜き取り、内侍佐々貴山君に持たしめ、大納言藤原卿と陪従
    の大夫等とに遣し賜ふ御歌一首
    命婦誦みて曰く

この里は 継ぎて霜や置く 夏の野に 我が見し草は もみちたりけり
                       19−4268 孝謙天皇



 サワヒヨドリ キク科 フジバカマ属

 さわあららぎはサワヒヨドリの古名。山野の日当たりの良い湿地に生える多年草。高さ40〜80cmで、花期は8月〜10月。日本全土に分布する。

 歌意は、この里は1年中霜が降りるのだろうか 夏の野で私が見た草は 色づいていた、という意味。草は題詞にあるように、沢蘭(さわあららぎ)。
  夏の野とあるが、いつ頃詠まれたのだろうか。
 題詞にある天皇は孝謙天皇。大后は光明子。二人が大納言藤原家に行幸した時の歌とある。

 続日本紀の孝謙天皇の天平勝宝4年(752)夏4月9日の条は次のように記しており、あるいはこのとき詠まれたものかもしれない。
「東大寺の盧舎那大仏の像が完成して、開眼供養をした。この日天皇は東大寺に行幸し、天皇みずから文武の官人たちをひきつれて、供養の食事を設け、盛大な法会を行った。……この日の夕は、天皇は大納言の藤原朝臣仲麻呂の田村第に入られ、御在所とされた。」(宇治谷孟訳、講談社学術文庫)

 なお、夏に葉が色づいているように見えるのは、病葉だという。だとすると、この頃孝謙天皇の後ろ盾で絶頂期にあった仲麻呂の行く末を暗示しているようにも思えるのだが。    



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