ひ  る

ノビル   蒜



醤酢に 蒜搗き合てて 鯛願ふ 我にな見えそ 水葱の羹
             巻16―3829 長忌寸意吉麻呂


 蒜は、ネギ・ニンニクなどの古名で、ネギ類の総称としても使われている。ノビルはユリ科、ネギ属の野生のネギ。全国の山野や土手に生える多年草。初夏の頃花茎を伸ばして花穂を付けるが、開花前の花穂は膜状の苞に包まれ、先がとがっている。花穂は花とむかごからなっているが、むかごだけのものもある。

 鱗茎は味噌をつけて齧る。葉を齧るとピリッと辛い。それが蒜の名の由縁とか。その葉は歌にあるように茹でてぬたにしても良いし、汁物にしても良い。

 歌は宴席での座興の歌で、目の前に出された膳に並ぶ料理の醤・酢・蒜・鯛・水葱を詠み込んで即興で詠ったもの。

 歌意は、醤酢に蒜をつき混ぜて鯛を食べたいと願っているのに、私の目の前になんぞ出てくるな水葱の羹なんか。 長忌寸意吉麻呂は、このような隠題の余興の歌が得意なのか後に7首がつづく。


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