やまたづ

ニワトコ   山多豆 山多頭



 君が行き 日長くなりぬ やまたづの 迎へを行かむ 待つには待たじ
                  巻2−90 衣通王

 白雲の 竜田の山の …… 山たづの 迎へ参ゐ出む (長歌)
                  巻6-971 高橋虫麻呂

ニワトコ  スイカズラ科 ニワトコ属 

   日本全国の山野で普通に見られる落葉低木で、庭木としても良く植えられている。根元近くから幾本にも枝分かれして、高さは5〜6mほどになる。4〜5月頃その年伸びた枝の先に円錐花序を出して、淡黄白色の小さな花を沢山つける。枝や幹を黒く焼いたものは、骨折や打ち身の薬になるという。

 古くから良く知られた花で、万葉集では「やまたづ」として2首に詠い込まれている。だが、これはやまたづそのものを詠ったものではなく、次の句のむかへるの枕詞として詠われているものである。

 やまたづの葉は細い枝に何枚も向かい合って(対生)ついているところから、同じ音の迎えるに掛かる枕詞として使われている。

 90の歌意は、あなたの旅は日数が重なった。(やまたづの)迎えに行こうか、とても待ってはいられない。  この歌は古事記から引用されたもので、古事記によると軽太子が同母妹の軽大郎女を犯したため伊予の湯に流されたが、軽大郎女は軽太子恋しさのあまり後を追ったという。その時軽大郎女(衣通王)が詠ったのがこの歌。

 この歌の類似歌で仁徳天皇の皇后磐姫の詠った歌が85の歌。

 君が行き 日長くなりぬ やまたづね 迎へか行かむ 待ちにか待たむ
                  巻2−85 磐姫皇后

 歌意は、君の行幸は日数が重なった。山を尋ねて迎えに行こうか。それともひたすら待っていましょうか。こちらは山上憶良の類聚歌林に載っている歌。

 90の「やまたづの」のやまたづは花木のこと。85の「やまたづね」は文字通り山尋ねのこと。「の」と「ね」の一字違いで意味が全く変わってくる。


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