な  し

ナ シ  梨 成



もみち葉の にほひは繁し 然れども 妻梨の木を 手折りかざさむ
             巻10−2188 作者未詳

露霜の 寒き夕の 秋風に もみちにけらし 妻梨の木は
             巻10−2189 作者未詳

梨棗 黍に粟次ぎ 延ふ葛の 後にも逢はむと 葵花咲く
             巻16―3834 作者未詳

十月(かみなづき) しぐれの常か 我が背子が やどのもみち葉 散りぬべく見ゆ
             巻19−4259 大伴家持


ナ シ バラ科 ナシ属

 本州・四国・九州に分布。花期は3〜4月。果実は9〜10月に熟します。

 日本書紀に、「持統天皇7年(693)3月17日、詔して、全国に桑・紵・梨・栗・蕪青などの草木を勧め植えさせられた。五穀の助けのためである。」とありますように、梨は古くから食用として栽培されていたようです。

 だが、これは多分ヤマナシで、水分も甘みも少なく、あまり美味しくなかったと思われます。現在の梨は、この山梨に改良を重ねて、甘く美味しいものにしたものです。因みに梨の収穫高日本一は千葉県で、中でも市川市が県内一を誇っています。

 2188の歌意は、もみじは色とりどりに照り映えている。けれども私は妻梨の木を手折って髪に挿そう。作者は、妻を亡くしたのか、あるいは未婚か、妻がいないので妻梨の木をと言っています。無しと梨が掛詞になっています。

 2189の妻梨の木も同じ用法。3834の歌は詠数種物歌。掛詞の連続です。

 4259の大伴家持の歌には、梨の文字は詠み込まれていませんが、左注に「右の1首、少納言大伴宿禰家持、その時に梨のもみてるを見てこの歌を作る。」とあるところから、梨の木の黄葉を見て詠ったことが分かります。
 歌意は、10月のこの時雨の故か、あなたの邸の庭の黄葉は、今にも散りそうに見えます。

 
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