く  り

ク リ   栗



松反り しひてあれやは 三栗の 中上り来ぬ 麻呂といふ奴
                    9−1783 柿本人麻呂歌集

三栗の 那賀に向かへる 曝井の 絶えず通はむ そこに妻もが
                    9−1746 作者未詳

瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ いづくより 来りしものそ まなかひに もとなかかりて 安眠しなさぬ
                    5−802 山上憶良

 クリ ブナ科 クリ属

 栗は山野に自生する落葉高木で、木は堅く耐久性があるところから、土木や建築材として利用されてきた。日本原産のものは「ニホングリ」と言って粒が大きく、802の歌にあるように古くから食用に供されてきた。今では秋の味覚として栗御飯の他、栗羊羹、栗きんとん、栗最中、ケーキなど多くの菓子の材として使われている。

 初夏(5〜6月)の頃、白い小さな花を花穂状につけ、秋にイガに包まれた実がなる。通常一つのイガの中に三つの実が入っており、真中の実を「三栗」と言い、そこから「中」や「那賀」にかかる枕詞となっている。

 1783の歌は、その前にある人麻呂の歌1782に対して応えた歌。
 1782の歌は、「雪こそは 春日消ゆらめ 心さへ 消え失せたれや 言も通わぬ」で、赴任先の人麻呂の所に便りも寄こさない、情愛も無くなってしまったのかと苦言を呈している。
 これに対して妻の応えた歌が1783。ぼけてしまったのでしょうか、中上がりにさえ来ないで。麻呂というやつは。となかなか厳しいしっぺ返し。

 中上がりとは地方官が任期中に報告のために上京すること。上京しながら寄っていかないことを詰っているのだろう。



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