くれなゐ

ベニバナ   紅 呉藍 久礼奈為



黒牛の海 紅にほふ ももしきの 大宮人し あさりすらしも
                巻7−1218 作者未詳

立ちて思ひ 居てもそ思ふ 紅の 赤裳裾引き 去にし姿を
               巻11−2550 作者未詳


ベニバナ キク科 ベニバナ属

 万葉集に詠み込まれている「くれない」に該当する花は紅花である。

 紅花の原産地は地中海地方で、それが東洋に伝わり、日本には6世紀の終わりころ中国を経由してもたらされた。くれないの名前の由来は、中国南部呉地方で多く栽培され、染料として利用されていたところから「呉の藍」(くれのあい)から「くれない」になったという。藍は色ではなく、染料となる植物を言ったらしい。

   紅花は1年草または2年草で、草丈1m位。枝分かれした先にアザミのような花を付ける。花の色は始め黄色で、時間とともに赤くなり、これを摘んで染料とした。茎の先の花を摘むところから末摘み花の別名がある。

 古代エジプトでは紅花で染めた布でミイラを包み屍衣にしたとあるが、日本でも6世紀終わりころの藤の木古墳の棺内から紅花の花粉が見つかっている。紅花には染色とともに防腐の意味もあったのかもしれない。

 万葉集では、花そのものを詠った歌はなく、大半がこの花で染めた衣を詠い込んでおり、明るい情景や、熱い心を詠っている。

 1218の歌意は、黒牛の海が紅に輝いている。大宮の女官たちが漁をしているらしい。

 2550の歌意は、居ても立ってもいられない。赤裳の裾を引いて帰って行ったあなたの姿が忘れられなくて。    

 
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