あぢさゐ

アジサイ   味狭藍  安始佐為



言問はぬ 木すらあぢさゐ 諸弟らが 練りぬむらとに 詐かれけり
                  4ー773 大伴宿禰家持

あぢさゐの 八重咲くごとく 八つ代にを いませ我が背子 見つつ偲はむ
                20ー4448 左大臣橘諸兄


 アジサイは、ガクアジサイを母種とするわが国原産の花で、初夏を代表する花と言って良いだろう。

 今では、社寺の境内や公園、民家の庭など広く栽培されており、アジサイの名所として売り出しているところも各地にある。
 厄除けやお金儲けに効験があると言うので、アジサイを門口に吊るしておく風習を伝えるところもある。

 それだけ愛されているアジサイも、万葉集にはたった2首しか詠まれていない。下って平安時代になっても、多くの花が登場する枕草子や源氏物語には全く現われないという。万葉人はアジサイをどのように見ていたのだろうか。

 4448の歌が、あじさいが次々と色を変えて長くも咲くように、いつまでも末長く お元気でいてください君よ、あじさいを見るたびにお偲びしましょう。と、あじさいを縁起の良い方に見ているのに対し、

 773の歌は、物を言わない木にさえ、アジサイのように色変わりするものがあるのだから、諸弟めの練りに練った大ぼら吹きに騙されてしまったのはしかたがないことか。と、あじさいが次々といろ変わりするところから、信用が置けないものとみて、4448とは全く逆の見方をしている。
 当時の人は、この色変わりを心の移ろいと見て、良くは思っていなかったのだろうか。


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