三 輪 山



味酒 三輪の山 あをによし 奈良の山の 山のまに い隠るまで 道の隈 い積もるまでに つばらにも 見つつ行かむを しばしばも 見放けむ山を 心なく 雲の 隠さふべしや
                             1−17 額田王

三輪山を 然も隠すか 雲だにも 心あらなも 隠さふべしや
                             1−18 額田王


 三輪山は神の鎮座する山、神奈備として、そして麓の大神神社の御神体として古くから尊崇されてきた。円錐形の秀麗な山は、飛鳥の大宮人にとっても慣れ親しみ、朝に夕に遥拝してきたに違いない。
 天智6年(667)、都は近江の大津に遷された。住み慣れた飛鳥の地を離れ、そんな三輪山も見納めの時が来た。
 北に向かう道すがら、遠ざかる三輪山をいつまでも見ていたい。なのにいま雲が隠そうとしている。

 歌は、雲よ情けあるなら、どうか隠さないでいて欲しいという願いを詠っている。これは額田王だけでなく、すべての人の気持ちであったのだろう。本心は住み慣れた地を離れたくなかったのかもしれない。

 額田王たちはこの山の辺の道を行き、同じ景色を眺めたのであろうか。



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